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DIARY

Murmures des murs

Traveling amusumentpark at Jardin des Tuileries in Paris

Traveling amusementpark at le Jardin des Tuileries in Paris

数年前、ニューヨークを訪れた折に、どうしても観たかったにもかかわらず、残念ながらチケットが完売で、泣く泣く諦めた作品をようやく楽しむことができました。

世田谷パブリックシアターにて上演された「ミュルミュルミュール」では、段ボール箱、プチプチの気泡緩衝材、ビニールトタンなど、日常にありふれた何でもないものたちが様々に形を変え、非日常への鍵となって、アリスインワンダーランドのような迷宮へと私たち観客を誘います。

演出は夫と共に旅のサーカス団を率いてきたチャーリー・チャップリンの娘、ヴィクトリア・ティエレ=チャップリン、そして、迷宮に迷い込んだ主人公を演じるのは幼い頃より両親とともに旅芸人として舞台に立っていたヴィクトリアの娘のオーレリア・ティエレ。

どのような訳か退去を命じられて、部屋の荷物を梱包している主人公は、いつしかあのプチプチの緩衝材が巨大化し、モンスターになるのを目撃します。しかし、そのモンスターはどこか愛らしく、主人公をそっと抱きよせ包み込んでしまうのです。そこから始まる不思議な旅は、表情のない奇妙な男達から逃げ惑い、魅力的な男性と出逢ってつかの間の恋に落ち、また何とも言えぬ奇怪な生き物に出逢ったり、その奇怪な生き物に変身してみたり………。

ピアノにストリングスにノイズ、モダンでイノセントな音楽を背景に、オーレリアの強靱かつしなやかな身体による一人で同時に二役を演じるマイムに、情熱的なタンゴ、そしてマグカップをつま先に履いてのタップダンス、消えたはずのものが再び表れるようなマジック、さらには、ジャンプスーツを用いた宙づりでのロープアクトで、次から次へと不思議な世界へと連れて行ってくれました。

チャップリンファミリーの中で、徹底的に芸を追求し、身体を鍛錬してきたであろう片鱗が、場面の至る所に観られ、柔軟性も筋力もリズム感も到底及ばない私には、オーレリアという女性が女神に見えました。

美術も照明も音楽も衣装も、全てにおいてセンスがよく、芸術的でありながら、客席のそこかしこから子供達の笑い声も聞こえてきたことが、この度の最も嬉しい発見でした。

針とアヘン

Old port of Montreal in Quebec

Old port of Montreal in Quebec

世田谷パブリックシアターにて、ケベック州を代表する演出家ロベール・ルパージュの『針とアヘン』を観劇して参りました。

ジャズの名匠マイルス・デイヴィスと、画家に詩人に映画監督と、その表現の形態は多岐にわたったジャン・コクトー、いずれも芸術に生き、またドラッグに溺れたふたりをモチーフに、全編モノローグで繰り広げられる物語に、人目もはばからず爆笑し、そして深く考えさせられました。

上映中、絶えず回転する立方体の三面を切り取ったセットには、パリやニューヨークの映像が投影され、場面転換の度にベッドが表れては消え、また窓が開いたり、ドアが閉じられたり、限られた空間を最大限に活かす工夫が凝らされています。

北米カナダにおいて、フランス語と英語が共に公用語として話されるケベック州にて創作が行われているからでしょうか、物語の中では、同じフランス語を話しているにもかかわらず、フランス人とカナダ人の間では理解できなかったり、今度は英語で話すと、フランス人には専門用語が理解できなかったりと、相互不理解が醸し出す滑稽さは、旅をしたことのある方ならどなたでも経験のあることでしょう。

劇中、忘れ難き台詞がありました。
「芸術家は実験することを許されず、自己模倣を求められる。そして飽きられたら他の人間に代えられるだけ」

明日は我が身です。
心して生きなければ。

白漆

Akito Akagi Exhibision at Kagure

Akito Akagi Exhibision at Kagure

能登在住の赤木明登さんの漆芸作品の展覧会が、表参道のかぐれにて開催中です。

朱色や黒、拭き漆の赤茶などの作品を長年作っていらした赤木さんが、白漆に初めて挑んだとのこと、嬉々として馳せ参じました。

世界一のレストランとの呼び名も高きコペンハーゲンのNOMAが約一ヶ月限定で、マンダリンオリエンタル東京にて出店した際に、日本の器を用いたいとの趣旨に賛同して、安藤雅信さんや内田鋼一さんとともに、器を納品なさったそうです。

その折に、シェフ直々のご所望により、白漆にも初挑戦したとのこと、限られた人々しか触れることのなかった新たなシリーズにお目にかかることが叶いました。

北欧ではレモンなどの柑橘類が育たないため、酸味は蟻で摂取するとのこと、赤木さんの漆のお皿に盛られたクラッシュアイスのベッドに、蟻をまぶしたボタン海老が横たわる姿に、衝撃を受けました。

実は、仕事場で温かいお味噌汁をいただくためのお椀を見繕うべく訪れたのですが、赤木さんが職人生活25年目にしてこれもまた初めて試みたという、手描きの繊細な絵を配した大きめの黒いそば猪口を柄違いで5つ求めました。

冬休みに暇を持て余し、工房の窓から見える葉の落ちた樹木を眺めるうちに、心がうずいて蒔絵筆を買いに出かけ、朱色の漆でドローイングのようにして描いたのだそうで、作為のないそれは、私がずっと目指していながらまだたどり着けない演技の境地のようで、少し羨ましかったです。

5つ重ねて仕服に包み、仕事場へ持参します。

赤木さんの器で温かい汁物をいただきながら、能登の長い冬を思えば、来たる冬の撮影もなんとか乗り切ることができそうです。

美しきもの

Taizo Kuroda Exhibition at Yu-an

Taizo Kuroda Exhibition at Yu-an

本日、南麻布の游庵にて開催されている黒田泰蔵さんの展覧会を拝見して参りました。

花人の川瀬敏郎さんのご著書に度々登場する緊張感のある白い器に憧れて、渋谷の黒田陶苑さんにて瓶子の形をした花入れを求めたことがありました。

残念ながら和室を持たない我が家では、玄関の靴箱の上を床の間に見立てて掛け軸を飾り、
黒田泰蔵さんの花入れに季節の花を生けています。

マットな質感の濁りのない白い器たちが、どのような工程を経て生まれるのか、お訊ねしたかったのですが、黒田泰蔵さんご本人がご不在だったことが悔やまれます。

オープニングレセプションにて游庵を設計なさった安藤忠雄さんがおっしゃった言葉が印象的でした。

「美しいものを作るには、ギリギリの緊張感と命がけの仕事が必要なのです」

なにもない空間

Théâtre Des Bouffes Du Nord in Paris

Théâtre Des Bouffes Du Nord in Paris

90歳にして今もなお現役で活躍する伝説の演出家ピーター・ブルックの最新作

「Battle Field」を観るため、半年ぶりにパリを訪れました。
20代最後の年にインドを旅した折、真っ当なガイドからもインチキなガイドからも度々聞かされたインド二大叙事詩のひとつ「マハーバーラタ」の物語を題材に、舞台装置も大仰な装束も、メロディアスな音楽もない空間で、人間の偽りようのない真実を描いた作品です。

パリ北駅の近く、初めて足を運んだThéâtre Des Bouffes Du Nordは、廃墟と化していた19世紀の劇場をピーター・ブルックが自ら買い取り、わずかなリノベーションを施して再生させたとのこと、趣き豊かな空間は、ピーター・ブルック自身が齢を重ねてもなおその輝きを失わず、むしろ明晰で研ぎ澄まされた感性を放っている姿と重なって見えました。

舞台上にあるのはご覧の通り、経年変化で朽ちた様も美しいベンガラ色の壁と、数本の棒、黒い箱が2つに、日本人の土取利行さんが弾じるジャンベと、土取さんのための椅子のみです。

1985年に9時間の大作として上演された「マハーバーラタ」を極限までそぎ落とし、1時間30分にまとめた本作で、人間の滑稽さ、欲深さ、生きることの美しさ、そして愛という皮を被った執着を手放すべきことの大切さと、普遍的で誰にでも心当たりのあるテーマを、シンプルに、そして愉快に語りかけてくれました。

何よりも、主人公の王子にクリシュナが向けた「お前は善の中に悪を見、悪の中に善を見る。いずれにしろ、平和と戦争のどちらかを選ぶことはできないだろう、戦争か別の戦争だ」という言葉が、この世のありのままを語っており、人間は物語が書かれた千数百年前からまるで変わっていないのだと、諦めにも似た気持ちになりました。

なにもない空間で、出演者が楽に立ち、自然に言葉を発するようになるまで、果たしてどのような稽古がなされたのでしょうか。観客は余白の中に戦場を目撃し、川や森を見ます。かき鳴らされるジャンベの音に時の流れを司られ、更なる旅に出るのです。

それはきっと、ピーター・ブルックという演出家が、演技者の可能性を信じ、そして観客の想像力を信じているからなのでしょう。

ご子息のサイモン・ブルックが稽古場に潜入し、役者たちの肉体に魂が注ぎ込まれる過程を収めたドキュメンタリーフィルム「世界一受けたいお稽古」で、心の動きに身体がどのように反応するのか、徹底したリアリズムを追求しつつも、全ての役者にあたたかい眼差しを向けていた御大は、老いも若きも待ち望んでいた「Battle Field」のプレミアをインドの覚者さながらに静かに見守っておいででした。

東京公演は2015年11月25日より新国立劇場にて。

再演

Roman Theater at Hierapolis ruins in Turkey

初舞台「猟銃」を再演することになりました。

井上靖さん原作のこの作品は、一人三役を演ずるモノローグで、シルク・ドゥ・ソレイユのVAREKAIに出演中のロドリーグ・プロトーさんも舞台上にはいらっしゃいますが、彼は台詞を一言も発することなくマイムに徹するため、一人芝居に等しいのです。

2011年の初演の際、「あなたが再演しないなら、ほかにいくらでも良い女優さんはいるから」と、パルコ劇場のプロデューサーの毛利美咲さんに脅されました。

「ええ、どうぞ他の方で再演なさってください」と言えなかったのは、演劇の「え」の字も知らなかった私に、モントリオールでの稽古に公演、そして、東京、兵庫、名古屋、福岡、新潟、京都と、得がたき経験をさせて下さった演劇界の母である毛利さんと、最初にご依頼をいただいてから約5年も逃げ続けたにもかかわらず、ずっと待って下さり、新たな世界の扉を開いて下さった演劇界の父である演出家のフランソワ・ジラールさんの厚い想いにお応えしたいと思ったからです。

初演の折には、稽古開始の一ヶ月前にモントリオールへ渡り、フランソワ以外の友人知人は誰ひとりとしていない彼の地で、ただひたすらに朝から晩まで台本を読むばかりで、当初は名所旧跡を訪れるゆとりなど全くありませんでした。

しかし、フランソワ曰く、「演じるとは英語でプレイ、フランス語ではジュエ、いずれも『遊ぶ』という意味を兼ねる。だから僕らは舞台の上で演じ、そして童心に返って遊ぶんだ」とのこと、稽古場で毎日お茶を淹れてくれる彼と、くだらない話しをして笑い転げていました。

再演は少しくらい楽になるだろうと久々に台本に目を通してみましたが、なかなかどうして手強いものです。

USB-Cポートを頸椎あたりに設置して、メモリーを差し込めば勝手に台詞をインストールできるように、どなたかしていただけませんか?

ごあいさつ

Motoi Yamamoto Exhibision at LA GALERIE PARTICURIÈRE in Paris

Motoi Yamamoto Exhibision at LA GALERIE PARTICURIÈRE in Paris

40代を目前に控えて、新たな道を歩み始めました。

これまで25年もの長きにわたり、大きな会社の庇護のもと、ありがたい環境にてお仕事をさせていただいておりましたが、女優人生の第二幕をどのように生きるべきか熟慮した結果、少し足もとはおぼつかないながら、道なき道を歩んでみることにいたしました。

そもそもが怠惰な性格なので、少しくらい負荷がかかった方が、頑張ろうという気持ちになれるのです。

心から楽しめる作品に魂を注ぎ、それを皆様がご覧下さることが励みとなっておりますので、今後も変わらぬご支援をいただけますよう、どうぞ宜しくお願いいたします。

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MIKIMOTO 「My Pearls, My Style」 Photographer:HIRO KIMURA

LEE 2021年11月号(集英社) Photographer:伊藤彰紀

美ST 2021年11月号(光文社) Photographer:伊藤彰紀

大人のおしゃれ手帖 2021年10月号(宝島社) Photographer:伊藤彰紀

HERS 2021年春号(光文社) Photographer:伊藤彰紀

Photographer:伊藤彰紀

GLOW 2020年1月号(宝島社) Photographer:伊藤彰紀

GLOW 2020年1月号(宝島社) Photographer:伊藤彰紀

GLOW 2020年1月号(宝島社) Photographer:伊藤彰紀

Photographer:浅井佳代子

Photographer:浅井佳代子

ミセス 2021年4月号(文化出版局) Photographer:浅井佳代子

Precious 2021年9月号(小学館) Photographer:伊藤彰紀

ESSE 2021年10月号(扶桑社) Photographer:浅井佳代子

ESSE 2021年10月号(扶桑社) Photographer:浅井佳代子